5年くらい前の話。
大学時代に住んでいた街は、わりと開発され始めた地域で新しい家や店なんかが多く建っていた。
街並みも整然としていてまさに地域開発真っ只中の街だった。
ある時、街の事業の一環なのか、当時住んでいたアパートのすぐ近くの幹線道路の壁に、美大の学生が壁画を描くという事業が持ち上がった。多分街の景観の中にアートをってことだと思うんですが、それが大体1作品につき10×10mくらいの壁画スペースが200mおきくらいに7〜8作品描かれる大規模なものだった。
実際描いているところを見たことはなかったが、着々と壁画は描かれていった。
日に日に形を成していく様子に、いつの間にかそれを見ている時間が楽しみに変わっている事に気付いた。
そして全ての作品が壁画として完成した。
興味の無い人にとっては何の魅力もないものだったかもしれないが、私にとってはどれも個性的ですごく魅力的だったのを今でもよく覚えている。
色彩豊かなもの、すごく精密に描かれたもの、その中でひときわ記憶に残っているのが、ただ単純に墨文字縦書きで荒々しく「諸行無常」とだけ描きなぐられた壁画。もはやそれが壁画として成立しているのかも定かではないが、でかでかと壁一面に「諸行無常」。その潔さがすごく好きだった。
そうこうしているうちに大学も卒業し、地元長野へ帰ってきたわけですが、1年くらいしてちょうどその街へ行く機会があった。その壁画を思い出し、ぜひ写真に撮って残しておきたいと思い、その場所へ行ってみたらその壁画は跡形もなく無くなっていた。他の壁画はすべてそのまま残っているのに、なぜかその壁画だけ…
その時、私は悟りました。
「諸行無常」とはまさにこのことだと。
いつかいつかと後回しにしていると、その物事は跡形もなく消え去り、後悔の念しか残らない。あの壁画はもう見ることはできないけれど、私の心に大きなメッセージを残してくれました。
もしかしたら、あの「諸行無常」の壁画はそこまで見越した上での作品だったんだろうか…
最近そう思えてならない。